シェーン・オリバーがHood by Airを再開

SSENSE独占インタビューで、熱狂的なファンを持つブランドのカムバックをデザイナーが語った

  • インタビュー: Katja Horvat
  • 写真: Paulo Sutch

この記事は、クリエイティブ ディレクター特集の一環として書かれたものです。

2006年にデザイナーのシェーン・オリバー(Shayne Oliver)が立ち上げたHood by Air(略称HBA)は、単なるブランドを超えて、ひとつのムーブメントだった。多彩なコラボレーション パートナー、そしてニューヨークのアングラ シーン「GHE20G0TH1K」に群がるクラブ キッズのエネルギーが流れ込んだ、一大現象だった。絶頂期には、ファッション界でもっとも権威のあるふたつの賞も獲得した。2014年度のLVMH審査員特別賞と翌年のCFDAアワードだ。成長は続き、2000年代中頃の時代精神を象徴するブランドとなって、中立的なジェンダー、ハイブリッドなXXLのシルエット、ビッグなロゴが巷に溢れた。2013年の秋冬ショーでは、背中に「HOOD BY AIR」と大書されたネオプレン ジャケットで、エイサップ・ロッキー(A$AP Rocky)がトリを飾った。2016年のMTV ビデオ ミュージック アワードでは、いずれもパステル ピンクのHBA特注衣装で、リアーナ(Rihanna)がパフォーマンスした。2017年春夏ショーではアダルト動画サイト「Pornhub」とコラボし、フォトグラファー/アーティストのヴォルフガング・ティルマンス(Wolfgang Tillmans)がランウェイを歩き、最前席にはジェイデン・スミス(Jaden Smith)とリック・ロス(Rick Ross)の姿があった。それほどまでに綿密にハイプを考慮しながら、同年の4月、発表と同時にブランドの活動を停止したのは、驚き以外の何物でもなかった。理由は、個人的なプロジェクトに集中するため。

アーティスト イン レジデンスを務めたHelmut Langの2018年春夏コレクションは大々的に報道され、オリバーは30歳を迎えた。そして今、HBAが戻ってくる。目指すのは、ブランドの本質の抽出、個性の表現、インパクト、かつてHBAをかくも新鮮なブランドにしたストーリーの伝達だ。HBAの再始動によって、オリバーは物質主義と大衆文化に対する批判的な視点に取り組み、可能なソリューションを提供すると同時に、消費主義の新たなモデルをも提案する。

HBAであろうが、あるいはHelmut Lang、Longchamp、DieselColmarであろうが、オリバーがやることは紛れもなく彼独自の自立した行為だ。そこには、セクシュアリティ、ユーモア、パワー、疎外のテーマが脈打っている。ファッションの世界で、オリバーは恐れずに自分の考えを語る。誤解されているが、挑発は決して彼の意図ではない。だが誤解の結果、ある程度の自由が与えられるのも事実だ。昨年オリバーが練ってきた新しいアイデアとモデルが、あと数か月で姿を現す。さて、場所はニューヨークにある、作品の保管場所を兼ねたオリバーのスタジオ、別名「The Museum」。HBAのライターでありアート エディターであるカティア・ホルヴァート(Katja Horvat)のインタビューで、オリバーが初めてHBAの再開について語った。

カティア・ホルヴァート(Katja Horvat)

シェーン・オリバー(Shayne Oliver)

カティア・ホルヴァート:シェーン、あなたは何でもやりたいことを自由にやれると思ってる? 私と同じスロベニアの出身で哲学者のスラヴォイ・ジジェク(Slavoj Žižek)は、こう言ってるの。「今はやりたいことを何でもできる時代だ。アナルもOK、オーラルもOK、握りこぶしもOK。だが、手袋やコンドームで身を守る必要はある」

シェーン・オリバー:言えてるな。それこそ、[活動休止する前の]HBAで直面した問題のひとつだ。オレは自分の考えや信念を守ることを止めてたんだ。HBAのかたちで自分の視点を世界へ発信する、そのために必要なことをオレはやった。だがもっと前へ進むには、信念が必要なんだ。信念を失ったらどうなるか、それは知ってのとおりだ。

HBAを休んでほぼ2年になるけど、あなたにはまだ確かなファンがついてる。そういうファンが今も、あなたのことを話題にして、あなたのデザインを着て、あなたのカムバックを熱烈に待ち望むのは、あなたのアイデアを待ってるんだと思う? それとも、単に、あなたが作る服を着たいだけなのかしら?

アイデアだ! 何年かのあいだ、HBAは人間の新しいアーキタイプを創り出そうとした。それまでオレたちがまったく理解できなかった人間、オレが出会いたいと思った人間だ。それに共感したやつが多かったし、それは今でも変わらない。

一般の人々に対して責任を感じる? みんなが注目する立場にあることで、特定の課題に取り組まなきゃいけないように感じる?

以前はそうだったと思う。オレの考てることや信じてることを表現することで、オレのまわりに人が集まってきた。オレと同じことをやりたいと思ったり、オレを使って自分たちの世界を切り拓きたいと思ったやつらだ。コラボは、そういう勇気や自己発見の感覚を体験するきっかけになることが多い。だがコラボが両方にとってプラスに作用するには、ある程度、アイデアの交換を尊重する必要もあると思うね。

Hood by Airを再開するということは、その尊重と相互関係があなたの中でクリアになったということなんでしょうね。過去と現在までのあいだに、何が変わった?

Hood by Airの基本的な考え方はまったく変わらないし、これからも変わらない。が、オレは変わったし、オレのまわりのやつらにも変化があった。HBAを休止する前は、オレ自身を超えるために、とにかく闇雲に突進してるだけの状態だった。だが、問題を曝け出すだけじゃなくて、そのソリューションを創造することが大切なんだ。そのことを理解するのにちょっと時間が必要だった。あの頃は、どういうものか、ソリューションの部分が欠けてた。だからちょっと時間をとって、オレの、オレたちの、選択を考え直さざるを得なかったんだ。

困難を受け容れる余地を作って、困難に向き合う。それって、どんな仕事にも欠かせない要素だわね。

以前のオレたちが、そうしなかったわけじゃない。オレたちなりに最善を尽くしたけど、ある時点でもうコントロールできなくなった。だから今は、やり過ぎるんじゃなくて、特定のアイテムでオレが表現したいことを伝達して説明する。それだけを心がける。

どうして今のその心境になったのかしら?

以前オレたちがやったことは、全部、すごく誇りに思ってる。オレたち自身のためにも、ほかのたくさんのブランドのためにも、スペースを作り出した。だけど、HBAというブランドの歴史を考えると、オレたちの表現が完全には理解されない場合も多かったんだ。人間っていうのは、自分に理解できないものは適当に片づけてしまう。頭の中の適当な引き出しに突っ込んでしまうんだ。オレたちの場合は、正しい引き出しより、間違った引き出しに入れられる場合がはるかに多かった。だから、オレの今の目標は、十分に理解されること。そのために必要なら、オレにとって正しい引き出しを作るまでだ。とにかく、すべてがクリアでダイレクト — それがオレの目標だ。

もう長いあいだファッション界で仕事をしてきて、なおかつ現状を突破して新しい面を切り拓けると思う?

もちろん! 現状打破は明晰な理解と対話から生まれる、オレはそう思うね。いつまでも同じ思考と対話を繰り返してるだけじゃ、多分ダメだろう。だが、オレは新しい対話を始めようとしてるんだ。だから当然、新しい道は拓ける。

あなたにとっては、HBAの再開も一種の現状打破?

実際そのとおりだ。ちょっと時間をとってオレたちの決断を考え直す — そういう休憩がオレたちには必要だった。今は、かつてなく物事が明瞭になった。過去にもあったし今現在も続いてる、たくさんの対話の成果だよ。

ものすごく人気があるときに止めるのは、勇気がいるわ。最近特に考えることなんだけど、私たちってみんな「替え」がきくのよね。だから、停止ボタンを押すのはすごく勇気があることだと思う。

同感だ。それに、オレたちのカムバックがどう受け止められるか、誰にも分からない。上手くいくように願ってはいるけど、時が経ったことも承知してる。

あなたへの期待が大き過ぎると感じることはある?

正直なところ、どうだろう? 自分の期待を超えることに忙しくて、考えたことがない。

それじゃあ、あなたの仕事は誰のためなの? あなた自身のため?

オレの前にいた人たちへのオマージュ。オレの後にくる人たちのため。色々な考え方が認められる空間を作るオレのため。それから、自分の考えを表現しようとしてる人や、まさに今この瞬間起きていることに取り組もうとしている人全部のためだ。

ファッション ウィークという、目まぐるしい環境からは離れるつもり?

ファッション界のスケジュールはまったく馬鹿げてる! それに今のファッション ウィークは、本当に必要な連中の役には立ってない。若いデザイナーを見てみろよ。実際にはもうファッション ウィークなんか必要ないデザイナーに、いちばん大きい成功を持っていかれて、すっかり霞んでしまう。大規模なブランドにはファッション ウィークは必要ないのに、ファッション ウィークで必要なものを手に入れるのも、大手のブランドだけ。大企業は自分たちのアイデアをもっとスピーディに、もっと商業的に、もっと大きい割合で押し出せるから、基本的に、駆け出しのキッズはランウェイのムードボードみたいなもんだ。オレは、ああいう対話に参加する必要は感じないね。概してファッションだけの対話からファッション体制の外側へ、HBAを移動させたいんだ。そうすることで、別にオレが、ファッション界のために何かを証明したり新しい語彙を作ろうとしてるわけじゃないことを、みんなに本当に理解してもらいたい。

ブランドが — ファッション以外の世界でも — 成功するには、何が必要だと思う?

メッセージ。すごく陳腐に聞こえるかもしれないけど、主張がなきゃダメだ。それも「僕はデザイナーです。そして、僕はこれがクールだと思います」っていうだけじゃない。成功するには、パーソナルであれグローバルであれ、見落とされている空隙を見つけて埋める必要があると、オレは思う。

若いデザイナーは、そういう姿勢で仕事をするのを怖がる人が多いと思うわ。だって、結局はビジネスなんだし、ブランドとして色々と仕掛けていくならすごくお金がかかるもの。

このパズルは、たくさんのピースで構成されている。例えばバイヤーとか投資家といった外部の影響力から距離をとるんだったら、アイデンティティを作るうえで、自分の店舗を持つことがとても重要な要素だろう。「言いたいことを言う」ブランドは、自分たちの店を使ってアイデンティティを築く場合が多い。店があれば、自分のビジョンを全体的に表現できるし、自分の世界へ消費者を招き入れて、ウェアに託した意図を十分に理解してもらえるからな。だけど、君の言うとおりビジネスだし、昨今、特に若いデザイナーが店を持てるとしたら、すごくラッキーだ。それに実際、店が成功するケースはそう多くはない。そういう状況が変わればいいと思うね。投資家であれ誰であれ、若い人材に手を差し伸べて盛り立てていく — そうなればいいと思う。

店舗があることが重要なら、Hood by Airもそうする?

今すぐ店を持つ気はない。色んなことが進行中だから、一時的な小売店舗のオープンは優先事項に入らないよ。ただオレたちのシステムに導入する新しいモデルで、時代に即した小売り体験を提供できるはずだ。

あれもこれも、もしあなたがいなかったらどうなるのかしら? あなたがブランドから離れる可能性はある?

イエス アンド ノー。もっとクリエイトしてもっと仕事をする、そのために他のブランドへ行く可能性はイエス。HBAから離れる可能性はノー。HBAはオレ自身の一部だから、抜けるなんて想像もできない。だけどさっきも言ったように、オレは自分に忠実なデザイナーでもあるから、Hood by Airだけに自分を限定したくはない。ブランドはオレの活動の延長だと思ってるから、長期的には、他のブランドを指揮することはありえるね。

あなたの活動には矛盾がたくさんあるわ。痛みのなかにもある種の美しさがあると思う?

本当に好きなことを理解しようと思ったら、いっときの苦痛を味わなきゃいけないときもある。傷ついたり、痛みを感じたりすることを、あえて受けいれることもある。だけど、もうその苦痛は必要ないとわかったら、痛みと向き合うことが癒しにもなりえる。

Katja Horvatは、ニューヨーク、ベルリン、リュブリャナで活躍するフリーランスのエディターでありライター。Hood By Airのアート エディターでもある。『032c 』、『i-D 』、『Dazed(旧Dazed and Confused)』、『Interview Magazine 』等、多数に執筆

  • インタビュー: Katja Horvat
  • 写真: Paulo Sutch
  • スタイリング: Andreas Aresti
  • 翻訳: Yoriko Inoue