メイヤー夫妻の日常
仕事とロマンスを両立させるJil Sanderのディレクター カップル、ルーク&ルーシー・メイヤー
- インタビュー: Eva Kelley
- 写真: Piotr Niepsuj

ルーク・メイヤー(Luke Meier)とルーシー・メイヤー(Lucie Meier)は、仕事と生活の調和を美しく象徴するカップルだ。ふたり揃ってJil Sanderのクリエイティブ ディレクターに迎えられる前、ルークはSupremeのヘッド デザイナーを務め、アルノー・ファー (Arnaud Faeh)とOAMCを立ち上げた。一方のルーシーは、Louis Vuittonと Balenciagaで経験を積んだ後、Diorのヘッド デザイナーを務めた。そして学生時代に恋に落ちたふたりが結婚して、10年が経つ。ミラノのJil Sander本社が共通の職場になった現在も、メイヤー夫妻には何の問題もないようだ。ふたりは、互いに関わりあう生活から、迷路ではなく関係の精緻な曼荼羅を作り出している。
2018~2019年の秋冬コレクションのショーまで、残すところ数日。期待に浮き立つ社内で、ルークとルーシーは、慌しい時期にそぐわないある種の静謐を感じさせる。オフホワイトに統一されたミニマリズムの広い空間で、ただひとつ赤味を帯びた木のテーブルに座り、絞りたてのオレンジ ジュースを飲んでいるふたりの落ち着きは、自分たちの居場所を熟知している感覚としか説明できない。
プチ フールとJil Sanderの名入りスティック シュガーを前に、ルークとルーシーの星座の相性、ミニマリズムの意味、Jil Sanderが常になめらかであり決して硬くない理由を、エバ・ケリーが尋ねた。

エバ・ケリー(Eva Kelley)
ルーク(Luke) & ルーシー(Lucie)
エバ・ケリー:ふたりで何かを一緒にするのは、ずっと願っていたことですか?
ルーシー:私たちはずっと同じ業界で仕事をしてきたから、いつかはそうなればいいなと思ってたわ。しばらく、お互いにあまり顔を見ない時期があったの。違う街の違う会社で、とにかく忙し過ぎて。だから、同じ屋根の下で働けるようになったら理想的だと思ってたけど、予想より早くチャンスがやって来たわ。
ルーク:僕たちはいつも互いに仕事を見せ合ってたから、実際には、以前とそれほど違いはないんだ。今はずっと同じ部屋にいるというだけ。それも、違和感はないよ。
ロマンティックな関係が仕事のパートナーとして成功することはあまりないですけど、理由は何でしょうね?
ルーク:一般論で言えば、ちょっと神経質になって、意見の食い違いが増えるからじゃないかな。ファッションはかなりの集中を要求される業界だからね。ショーの前後は、1か月も顔を合わせないことがある。僕たちふたりの関係のいいところは、いつも本当の対話があること。いい加減な意見を言うことは絶対ないんだ。


なめらかだけど、温かみがある。すごくソフトで、同時にすごく細やか
おふたりは共にデザイナーでありながら、経歴はとても違いますね。そういう相違は、Jil Sanderでの仕事にどう影響すると思いますか?
ルーク:僕たちが違うのは、主にテクニックの面だ。ルーシーはオート クチュール畑を歩んできたし、服の作り方に関する限りオート クチュールはまったく別の世界だけど、本質的なプロセスは同じだから。
どんなプロセスですか?
ルーク:あるひとつのウェアでやりたいことに関して、ふたりとも妥協しないこと。スクリーン プリントであれジャカード織りであれ、同じようにディテールに注意を払うし、同じように深さを追究する。
Jil Sanderのスタイルはミニマルで、素っ気なくて、冷たいと勘違いしている人が多い、とおっしゃってましたね。でも実際は、Jil Sanderは非常にフェミニンで、エモーションが豊かで、軽やかだと…。おふたりのビジョンを多くの人が間違って捉えている理由は、何でしょう?
ルーシー:私たちにとって本当に大切なのは、着たときの感覚なの。衣服は着る人のために機能するものでなきゃいけない。衣服は着る人のためにあるのよ。その逆じゃないわ。だから、服に柔軟性があって、着る人に寄り添っていることを、私たちは大切にしてる。
ルーク:ミニマリズムというと、素っ気ない、陰気、面白くない、人間味がない、産業的すぎるって固定観念があるけど、Jil Sanderというブランドの核心には、ぎりぎりの本質まで削ぎ落とした、非常にシンプルなエモーションの要素があると僕は思う。それがJil Sanderの本質だよ。余分なものはまったくない。つまり、純粋なんだ。だけど、同時にエモーションに溢れている。ふたつをバランスさせるのは難しいけど、成功すると素晴らしいものが生まれる。

Jil Sanderにふさわしいと思う素材は?
ルーク:天然繊維。100%。でも同時に、Jil Sanderは、違う種類の繊維を混ぜ合わせるという斬新な手法を、最初にとり入れたブランドのひとつでもあるんだよ。ウールのスーツにナイロンをミックスするとかね。
Jil Sanderの手触りを3種類に要約すると、どんな言葉になりますか? さらっとしている、弾力がある、肌にからみつく…色々な形容の仕方がありますが。
ルーク:張りがある。だけど、軽やか。
ルーシー:なめらか。
ルーク:ほら、シャツにぴったりの生地がまっさらなときって、すごく…
パリっとしてる?
ルーク:だけど、硬くはない。手応えがあるほど硬くはなくて、なめらか。でも、温かみがある。すごくソフトで、同時にすごく細やか。
とても微妙なバランスのようですね。
ルーク:そう、バランス。というか、コントラストだな。

だけど、今挙げられた形容は、必ずしもお互いに矛盾しないですよ。なんだか、人の個性を描写しているみたい。では、今回のコレクションについて教えてください。
ルーク:ずば抜けて素晴らしいコレクション。
ルーシー:ルークは、いつだって、とても謙虚なの。
ルーク:未来的な観点のコレクション。曖昧な表現だけど、見ればきっとわかる。
ルーシー:フワッとしてる。
ルーク:うん、そしてファジー。
現在続いているヴィム・ヴェンダース(Wim Wenders)監督を起用したキャンペーンは、ドキドキする内容ですね。5つのエピソードが5か月にわたってリリースされて、しかも各エピソードがいいところで終わるから、その後どう展開するのか、とても気になるんです。あんな終わり方で連続するファッション キャンペーンは、今まで見たことがありません。どこから、アイデアが生まれたのですか?
ルーク:連続する出来事を一連の流れで描くアイデアを提案したのは、社内チームのアート ディレクター。つまり、過去、現在、未来と繋がっていくなかで、その途中でエピソードを区切るアイデア。現在のほんの一瞬が、将来の展開に対して強い興味を搔き立てる。これは、大切な過去を持つJil Sanderというブランドへ足を踏み入れる体験を、とてもよく象徴すると思ったよ。制作するにあたって、ディレクター候補の筆頭がヴィムだったから、ヴィム自身がアイデアに乗り気だとわかって、僕たちは大喜びしたんだ。信頼できる本物のディレクターと仕事をしたかった。ファッション フィルムにする気はなかったし、本物であることがあくまで大切だから。例えば、ドキュメンタリー風の撮影なら、ラリー・フィンク(Larry Fink)のような写真家を選ぶ。ふさわしい人材とコラボして、アイデアを実現するんだ。
撮影したのは、ベルリンのどの湖ですか?
ルークとルーシー:全くわからない。
ルーク:何年か前、僕たちもベルリンの湖へ行ったことがある。あのときは40度近くまで気温が上がって、人生で一番楽しかった日に入るな。ベルリンの夏はかなり涼しくて、みんな、家から出て外で過ごすんだ。街全体がすごく…
ルーシー:…活気づく。
ルーク:まるで、どこかの島へ行ったみたいだよ。もう一度行きたいね。なぜか、ベルリンへ行くのは決まって冬なんだ。
衣服は着る人のために機能できなきゃいけない。衣服は着る人のためにある。その逆じゃない


おふたりの馴れ初めは?
ルーシー:出会ったのはフィレンツェ。ルークはニューヨークの学校に行ってたけど、6か月の交換プログラムで、フィレンツェへテーラリングを勉強しに来たの。私は、フィレンツェの学校でファッション マーケティングを勉強してた。アパートの一部屋を私が借りて、ルークがもうひとつの部屋を借りてた。つまり、一種のルームメートね。
一目惚れですか?
ルーク:僕は、かなり早くから。
ルーシー:お互い、あまり時間がなかったから。
おふたりの星座の相性を見てみたいですね。占星術は信じますか?
ルークがルーシーへ:君は、オーラの写真が好きだよね。ニューヨークで何回か一緒に行った場所があるだろ。
オーラは何色でしたか?
ルーシー:私のオーラはいつも赤。いつかふたりで一緒に行ったときは、ふたりともほとんど同じ紫色のオーラだったわ。お互いに補い合ってる感じだった。

おふたりの星座は?
ルーシー:魚座。
ルーク:僕は偏執的で衝動的な乙女座。自分を知る乙女座。
オーケー。では、いいですか?
先ず魚座。乙女座の恋人は、あなたを満たしてくれるか、あなたと競争するか、そのどちらかです。時として散漫な忙しい生活を送る魚座に、乙女座は必要な枠組みと体系化の観念を与えてくれます。ふたりの組合せは、左脳(乙女座)と右脳(魚座)の出会いと言えるでしょう。どちらの星も相手に欠けたものを持っていますが、問題が生じる場合もあります。
乙女座は、理想主義であり、完璧主義です。明晰に世界を見るため、他の人が見落とした欠点に気付き、非常に批判的な印象を与えることがあります。魚座はあらゆるものに美と受容を見出すので、乙女座の細かい批判が心優しい魚座を傷つけることがあります。乙女座は必ず期限を守ろうとします。そのため、性的欲求が二の次になることがありますが、魚座は生真面目な乙女座を誘惑し、気を逸らせる方法を心得ています。そんなふたりは、夢のような関係、あるいはとても不快な関係を作ります。二人の愛情は、生涯続くか、あるいは数ヶ月で破綻するでしょう。
ルーク:僕たちはその数ヶ月を乗り越えたんだから、悪くないね。でも、かなり当たってるよ。
ルーシー:ええ、すごく当たってる。

Eva Kelleyはベルリンのマガジン『032c』のライターでありコーディネーティング エディターである
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