ジア・ソの自撮りとソックス哲学
ニューヨークを拠点とするアート ディレクターが語る、ペディキュア、ターゲット マーケティング、ファッションにおけるCO2排出の削減
- 文: Erika Houle
- 写真: Gia Seo

シンプルな定番のワードローブが社会実験となるとき、そこでは何が起きるのか。ジア・ソ(Gia Seo)は、自称「ソックス インフルエンサー」だ。これは、自分の存在を重要視しすぎることで知られるインフルエンサー界に、ある種のユーモアを交えようとする試みだ。ストリートウェアを着た無数の「イット」ガールとスポンサード コンテンツが溢れる中、手付かずの市場など存在しないかに思えたが、彼女はそれをものともせず、長年にわたる独自のソックス愛を通して、流行を作り出す駆け引きの世界に、新鮮で新しい視点を持ち込んだ。彼女の投稿をスクロールしていくと、間の抜けたポーズや、前向きなキャプションに加え、『IT』のピエロからクラシックなBurberryのタータン チェックまで、様々な装飾をほどこした靴とソックスの組み合わせが目に入る。これらに導かれ、カラフルで、千差万別なニューヨークのストリート巡りをしている気分だ。
アラスカ生まれ、アラスカ育ちの28歳のソは、子ども時代の大半を、野外探検をして過ごし、メインストリームのファッションにはほとんど触れることがなかった。母親が韓国の「伝統的スタイル」のデザイナーやCelineのようなラグジュアリー ブランドが好きで、幼い頃から彼女はそれを見てファッション センスを磨き、特に、ディテールに対するこだわりを持つようになった。ソは、今でもシルクのリボンをジャケットに縫いつけることがあるのだが、この生地には特に癒し効果があると言う。カリフォルニアの寄宿学校に通うようになって初めて、彼女はこの分野でキャリアを築きたいと希望するようになった。それからまもなくしてニューヨークに引っ越し、そこでビジネス、映画、コミュニケーションを学び、副専攻としてスタジオ技術とジャーナリズムを学んだ。ソはモデルの仕事を始め、地元の小さなブランドでスタイリングの仕事も請け負うようになり、そこから『Vogue』でインターンとしてグレース・コディントン(Grace Coddington)のような人々の下で働いた。彼女は『Vogue』での経験を「『プラダを着た悪魔』カケルLouis Vuittonカケル2600万ものその他のラグジュアリー ブランドとのコラボ」と表現する。またその頃から、「業界のビジネスに対する理解を深める」ため、ラグジュアリー専門のリテール、The Websterでバイヤーとして働くなど、多岐にわたる役割をこなしてきた。そして最終的に、彼女は自らのルーツでもあるアートの世界へと戻っていった。現在、ソはNikeや Opening Ceremonyといったブランドのため、アート & ファッション ディレクターとして仕事をしながら、サイド プロジェクトの「テクスチャー レポート」を公開したり、ソックスに着目したコーデ写真を公開したりしている。そのジア・ソが、今回SSENSEのために、ブログ文化やフットケア、サステナビリティの重要性、そして社会に還元することについて、自らの考えを披露してくれた。

Gia Seo 着用アイテム:コート(Comme des Garçons)、レギンス(Marine Serre)、ブーツ(Toga Pulla) 冒頭の画像のアイテム:クルーネック(Sacai)、T シャツ(Junya Watanabe)、トラウザーズ(Mugler)、ソックス(Fendi)、ヒール(Sies Marjan)
最初の仕事で学んだこと
私が『Vogue』で仕事をしていたのは、インターンに関する諸々の法律が実施される前の頃だったから、そこでの経験で本当に多くを学んだ。でも、私の後に来た人たちは皆、私たちのような、今27〜35歳の世代とは全然違う労働体験をしていることを悟ったわ。私は文字通り、皆から嫌われてた。あれは、ファッションの会社で働くことについて、私が考えていたステレオタイプそのものだった。でもあの経験のおかげで、私は、双方にとって利益のあるやり方でチームを管理する方法を学んだ。私の下で働いているチーム メンバー全員が、私が若い頃に求めていたのと同じ学習体験を得られるよう、今はとても気をつけてる。その意味では、これはマイナスどころか、プラスの経験だったと思う。
ソックス市場を制すること
数年前、ふたりのブロガーがターゲットを絞ったインフルエンサー業について話しているのを、小耳に挟んだの。彼女は、こう言っていた。「自分がどういうインフルエンサーなのか、タイプを絞ることができれば、もっとお金を稼げて、ブランドは私にモノを送ってくれるようになることがわかったの。今では、私は既製服限定のインフルエンサーと言っているから、アクセサリーや食べ物や飲み物は受け付けない」って。それを聞いて、「よし、ジア。私はどのターゲット市場にアタックしてみたい?」と考えたの。子どもの頃、私はラグジュアリーなモノを買うことは許されていなかったけど、ソックスは、お母さんと一緒にかわいいものを選ぶ習慣があった。それである日、私は自分の肩書きを「ソックス インフルエンサー」に変えて、ブランドや消費者がこれを真面目に考えるか、私のユーモアを理解してくれるかを見てみたの。結果的に、私の肩書きはとても真面目に受け取ってもらえたことがわかった。これによって、ソーシャルメディアでは、とてもシンプルなアイデアで自分自身を売り出すことが本当に簡単なのだとわかったわ。
フットケアの習慣
スポーツをして育ったから、私のやってるフットケアといえば、足が痛かったらタイガーバームをつけるか、長時間走っているときだったら、氷の入ったバケツに浸けて冷やすくらい。半年に1回くらいはペディキュアをするのが、本当はいいんだろうけど。[笑]
洗濯の裏ワザ
家から洗濯クリーニング サービスの店に行くまで、10ブロックは歩かないとダメなんだけど、行ったとしても、Proenzaのレザー ジャケットを出すのは何の抵抗もないのに、ソックスは無理なのよね。すごく面倒くさいメンタリティなんだけど、私は「このジャケットはいつでも買い換えられる。でもこのシルクのタイダイ ソックスは、あのパリのラグジュアリー ブランドがニューヨーク州北部で、インディゴ染めしたものだから、同じものはもう見つからない」って思ってしまう。スポーツ ソックスじゃない限りは。それだって、時々「このNikeのソックスはかっこよすぎてランドリーでなくすことはできない」って思うことがある。私は、ゴワゴワして、形のしっかりしたソックスが好き。洗いたてでパリッとしたやつ。「これは私の幸運のバスケットボール ソックスだから、もう10年間洗ってない」みたいなのとは違うの。もっと、「よし、これは糊が利いてる。ジアが洗面台で徹底的に洗って、しかもお母さんが韓国から送ってくれた上質の洗濯糊を使えたからだな」という感じ。
招かれざる物
たいていの場合、ブランドはまず私にメールで確認をとってから物を送ってくるの。でも、ある日、アシスタントから「ねえ、中国から送られてきた、あの変な箱は受け取った?」と電話がかかってきた。空港で使うクッションがあるでしょ。ネックピローって言うの? それだった。すごく長い2本の輪になったベルクロのストラップが付いていて、もう1本のベルクロのストラップの先にソックスが付いていた。私は訳がわからなくて、googleでこの送り主を検索して、私が知っている人かどうか調べてみた。すると、その送り主は、アダルト グッズを販売している、全く知らない人だとわかった。あれが多分、今まで送られてきたものの中でいちばん奇妙なソックスの組み合わせだった。何も送られてこない月もあれば、400足のソックスが、届くこともある。

Gia 着用アイテム:ブレザー(Gucci)、ボディ チェーン(Comme des Garçons)、T シャツ(adidas by Stella McCartney)、トラウザーズ(Charles Jeffrey Loverboy)
DMの対応
私の仕事用メールアドレスに、「こんにちは、ちょっとお尋ねしたいのですが、どのくらいの金額を支払えば、あなたがバスケットボールをプレーしたときに履いていたソックスを送ってもらえますか?」と連絡を送ってくる人がいた。私は10年くらいバスケはやってないし、あのソックスを探し出すには、さらにもう10年はかかるはずよ…他には、「お嬢ちゃん、こんちには。君の足を鞭で打ってみたい」なんてメールをよこした人もいた。「私が気持ち悪い足をしていたら、そもそもソックス インフルエンサーなんてやってると思う?」って感じだった。とにかく、どうせ送ってくるならもう少しユニークなDMにしてほしいわ。
「テクスチャー レポート」
「テクスチャー レポート」は、気晴らしにインスタのストーリーでやっていたことなの。インフルエンサー競争の一端を担っているとされてる人間からしてみれば、ストーリーは本当に飽和状態で、上辺だけのものになっているから。あるとき、「私は自分自身をブランドとして売っているのですらない、自分のすべてを売っているのだわ。正直、こんなバカなことに付き合えるほど私は若くない」と思ったの。私は何か自分自身のもの、お金のためにやるのでもなく、それについて話すことでスポンサーがつくのでもない、私自身に向けたことをやりたいと思った。そこで思いついたのがテクスチャーだった。テクスチャーというのは、私がファッションに関心を持つようになった最大のきっかけだったから。お母さんのクローゼットに座って、実際の生地は見ずに、目を閉じて、布の上で手を滑らせていたのを覚えてる。何でもそうだけど、私にとっては、質は量に勝るのよ。
インフルエンサー業界
気づいたのだけど、ブロガーたちが会うときは、お互いに連携して服を合わせ、虹のようにカラフルな格好で外を歩いたり、ファッショントレンド予測サービスのWGSNが今シーズンのトレンドだと言えば、それに従って全員がパステル ピンクの服を着たりするの。友人のひとりがすごく有名なブロガーで、最近教えてくれたのだけど、今ではブランドがコレクションの服とお金をこういうブロガーに送ってくれるから、そのコレクションのショーを実際に見に行く必要もないんだって。インフルエンサーたちは、「今このショーがダウンタウンで開催中だから、ショーが始まる前に、ここの角にストリート ファッションの写真家が集まっているはず」と計算して、そこに友だちと連れ立って行く。そこで街を歩く写真を撮られたら、Uberに乗って次のショーに向かう、ということをやっているの。友人はそうして、1週間で7万ドル以上稼いだと言っていたわ。それがビジネスよ。
環境保護の大切さ
Woolmarkは私がいちばん好きなメリノ ウールの会社よ。世界で唯一100%サステナブルなメリノウールを材料にしているから。サステナビリティを促進しているウールマーク プライズでは、若手のニットウェア デザイナーも積極的にサポートしてる。私の大好きなブランドは、まったくエコロジカル フットプリントを残さないものがある。たとえば、PH5なんかは、中国人の女の子2人組で、テクノロジーを駆使したニットウェアの最先端を行っているの。すべてがひとつの仕様書に従ってデジタルに作られていて、誰かが購入した場合にのみ、製造に回される。消費者直結型のマーケティングというやつね。いずれにせよ、これが将来のバイイングのあり方になるだろうと思う。私はアラスカで生まれ育ったから、現実に氷河が解けて、水が冷たくなりすぎたせいで、魚たちが姿を消すのを見てきた。それをこの目で見られるような場所で育ったのは幸運だったと思う。今は、誰もが常にサステナビリティのことを話しているし。ただ、ニューヨークにいると、この言葉はトレンド色ばかり強くて、皆が何かとこの用語を使いたがるけれど、本当は自分たちが何について話しているのかわかってないんじゃないかと思うことがある。
世界全体を見渡すこと
きれいなソックスは大きな変化をもたらすわ。路上に蔓延する病気の多くは、おそらく長期間、綺麗な靴やソックスを履いていなかったために、足から始まるの。保温性のあるサーマル下着を寄付するのと比べても、Hanesのソックスを寄付するという、ごくシンプルな行為がどれほど役に立つかを知れば、きっと驚くはずよ。毎年、私はニューヨークの慈善団体バワリー ミッションに行って、たくさんのソックスを寄付しているの。インフルエンサーという言葉は、本来、私たちのカルチャーにもっとも良い影響を与える人を指しているのだと思う。そして持ち前の基盤を使って、自分を見てくれる人たちが世界に良い変化を与えられるよう、情報を提供する人。それが真のインフルエンサーよ。
- 文: Erika Houle
- 写真: Gia Seo
- スタイリング: Gia Seo
- 翻訳: Kanako Noda