ガブリエル・ヘルドの世界
マニア垂涎のビンテージ コレクションを所有するニューヨークのスタイリストが、パフォーマンス アーティストのマルカ・マラとスタイリングを楽しみ、幼なじみの友人レナ・ダナムと率直に対話する
- インタビュー: Lena Dunham
- 写真: Magnus Unnar / Rep Limited

彼のビンテージ コレクションは群を抜いている。Gaultier、Moschino、Todd Oldham、Versace、Lacroix。1990〜2007年のDior。ニューヨークの売れっ子スタイリストであり、近年のファッションに捧げる賛歌とも言えるクローゼットを所有するビンテージ ディーラー。
そんなガブリエル・ヘルド(Gabriel Held)をご紹介しよう。

Maluca着用アイテム:スニーカー(Emilio Pucci)、 スカート(Gucci)
私がガブリエル・ヘルドに出会ったのは11歳のとき。同じ学校ではなかったけど、転校するかどうかを決めるために、彼は私の学校へやって来た。ゲイであることを隠しもせず、並み外れたテイストととてつもなく高い心の知能指数を持ち、ラスベガスのショーを持ってる歌姫の大多数より独創性に溢れた少年が、多少は孤立を感じているのではないかと私は想像していた。一方の私は、バーバラ・ストライサンドやビンテージのブラウスやピクシー カットが好きなことをからかわれる学校が、大嫌いだった。だから、彼は救命ボートのようだった。結局(私の学校をあまり魅力的に紹介しなかったせいか)一緒に学校に通うことはなかったけど、その後私が救命ボートを手放すことはなかった。
以来、私たちはそれなりに冒険してきた。がらがらに空いたペルー料理レストランでの夜8時の予約のために私をスタイリングしてくれた2001年の大晦日。隅っこでニセモノのゴールドのジュエリーを交換しながらたむろしてたカレッジの夏休み中のパーティ。イギリスのコメディ番組「アブソリュートリー ファビュラス」やアメリカのTVコメディ「Strangers with Candy」やパーカー・ポージー(Parker Posey)が出演してるものなら何でも、取り憑かれたようにVHSを交換していたとき。私たちはいつも以心伝心で、苦痛の多い現実から救い上げてくれる、そしてまだ見ぬ新しい言語や新しい美学や新しい自己への扉を開いてくれる、共通の語彙を作り上げていった。私が作った最初の短編映画で、ガブリエルは実験的なダンス アーティストを演じてくれた。私は彼のためにモデルを引き受け、Pucciと付け髪で床の上に寝そべった。
ガブリエルと私は、今年、大人になって初めて一緒に仕事をした。あるプレス ツアーのために、ガブリエルはTodd Oldhamを調達して、20パターンほどのスタリングをしてくれたのだ。子供時代の私たちは、遊び心があって天邪鬼なトッド・オールダム(Todd Oldham)というデザイナーに夢中だった。自分たちがなりたい大人像、つまりそれは子供っぽい大人だった。そんなトッド・オールダムのデザインと、若かりし頃の私たちには見つけられなかった、もしくは手が出せなかったスタイルへの憧れに、今、私たちの手が届く。夢がかなって、私たちはくらくらと目が回った。「ハリウッド」のスタイリストたちと違って、ガブリエルが素敵だと言ってくれるときは、単に素敵以上の意味が込められている。彼がそれでいいと言ってくれるときは、それ以上の意味が込められている。それは、ふたりの暗黙の約束を私がきちんと守っているという意味だ。最大限に力強く、真摯で、情熱のある自分であること、下品なジョークやクレージーな帽子を見限らないこと、まだ思春期でさえなかった私たちが決めた以外のどんな基準にも従わないこと。そんな約束を、ガブリエルもずっと守ってきた。ふたりの永遠の約束。

レナ・ダナム(Lena Dunham)
ガブリエル・ヘルド(Gabriel Held)
レナ・ダナム:あなたと私は、かれこれ20年、ずっと友達ね。私はヘルドの進化を見てきたけど、読者のために、自分と自分の仕事を説明してくれる?
ガブリエル・ヘルド:うわぁー、そうだね、キュレーター、ビンテージのディーラー、スタイリスト志望、かな。志望は、そろそろ取ってもいいかも(笑)。他に何かある?
ネットのパーソナリティとして、とっても成功してるって言えるんじゃないかしら。あなたのインスタグラムはちょっとした評判だし、それだけでひとつの独立した活動だと思うわ。
確かに、僕にとって、無くてはならないもの。僕はずっと、一種の原始的なインスタグラムをやってきた。切り抜きや取っておいた写真なんかをいつも持ち歩いてて、それが自然とベースになったんだよね。5年生の頃は、空のバックギャモンのケースに「Vogue」や「dELiA*s」のカタログの切り抜きをめいっぱい詰め込んで、昼休みになるとテーブルの上に広げてた。
つまり、バックギャモンのケースがデジタルになっただけなのね。
そういうこと。
インスタグラムであなたやあなたの仕事を知る人は多いのかしら?
そう、多いよ。クライアントの圧倒的多数は、インスタグラム経由で連絡が来るし。

Maluca着用アイテム:キャップ(Gucci)/ガブリエル・ヘルド着用アイテム:ジャケット(Moncler)

Maluca着用アイテム:キャップ(Gucci)/ガブリエル・ヘルド着用アイテム:ジャケット(Moncler)
あなたのインスタグラムで好きなのは、私がこれまでに会った人の中で、あなたが本当に最高に面白い人だってことが表れてるところなの。ファッション業界の人たちって、自分や仕事に対してあまりユーモアがないもの。あなたの仕事の中で、ユーモアはどんな役割を果たしているのかしら? あなたはファッションを真剣に考えてるけど、同時に、何事にもシリアスになりすぎないわよね。
人為的で、俗っぽくて、なおかつ純粋なユーモアがある...僕の美学は、そういう「キャンプ」の要素が大きい。何かを崇拝して同時にバカにするのって、楽しいよ。だから僕のコレクションにはGaultierのショーに登場したドレスもあれば、Baby PhatとかJuicy Coutureとか、誰も真面目に取り合わない文化の産物的な服もある。
一体、どういうふうに始まったの? ブルックリンで生まれて、アートの世界で育って、メリーランド芸術大学に行って、ずっとアーティストだったわよね。だけどいつも、何か他のこともしていた。パフォーマンスしてたこともある。それが自分の人生や仕事にどういう意味を持つって考えてた? あなたは自分にいちばん合った仕事を見つけたけど、自分で作り出したものでもあるわね。
まあ、自分の32年の人生を祝うにあたって、自分のやりたいことをできる場所を作ってきたなって思ってる。それってかなり勇気が湧いてくることなんだ。君も知ってるように、ギャラリーの世界やインディペンデント出版で何とかしようともがいた時期もあるけど、人生の流れに任せて、ずっと自分の中にある情熱に従ってみると、何もかもハマりだした。パフォーマンスは、特に考えがあったわけじゃなくて、やっていて良い気分だったし、楽しかったから。あがり症を何とかする方法でもあったしね。でも、歌うことは好き。ラップするのも好き。そういうパフォーマンスはずっと続けてるよ、ただ必ずしも人前でやらないだけで。
ハイスクール時代、ラップやヒップホップのダンスに関わってた白人の男の子はあなただけだったわ。ポーランド系もあなたひとりだった。文化の盗用が、まだ取り沙汰されることもなかった頃よ。どういう風に、その頃からそういうものを自分の中に取り入れていたの? あなたのアイデンティティの要素には黒人女性とつながりがるものが多いわよね。
今でもそう。僕はアートの世界で育ったけど、親じゃなくて祖父母がアートに関わっていたから、影響の受け方にもちょっと距離がある。僕の家族は、経済的にも他の家族と違ってたし。だから、黒人女性が表現するものに、自分の異質性を重ねたんだと思うな。自分が違ってることを表現する、具体的な方法だったわけ。だけど、育った地域にはラテン系の女の子たちもたくさんいて、メイクアップとかジュエリーとか髪型なんか、すごく魅力的だって思った。たった10ドルでセクシーになれることを、教えてもらったな。

Maluca着用アイテム:ジャケット(Off-White)

Maluca着用アイテム:ジャケット(MSGM)
私が知ってる中で、いちばん早くから自分のセクシャリティを明らかにしているのも、あなただった。もしよかったら、SSENSE読者のために、何歳の時にゲイを公言したか教えて。
12歳。
確かそうだったわ。10歳まではストレートだったんじゃないかなって思ったの。それにしたって、仲間は多くないわよね。ゲイを公言している12歳の男の子って、私の知る限り、あなたしかいなかった。だから、社会の端っこに追いやられてた女性たちの文化と繋がることで、孤独が軽くなった?
断然。例えばリル・キム(Lil Kim)って、女らしくてセクシーだけど、タフで強い女性じゃない? 逆なんだけど、僕の場合、男のラッパーよりもリル・キムを通したほうが、僕自身の男性の部分を理解しやすかった。それも一種の「キャンプ」だよね。ゲイがベティ・デイヴィス(Betty Davis)やジョーン・クロフォード(Joan Crawford)を好きなのも、彼女たちがすごくタフな女性だから。なんて言うと八つ裂きにされるかな。
全然そんなことないわ。逆境に打ち克って、なおかつセクシーでいる女性に惹かれるのね。
そう(笑)。
それってあなたが情熱を持っている分野だし、私が好きなものは、何もかもあなたに教えられたわ。「アブソリュートリー・ファビュラス」だろうと「ストレンジャーズ ウィズ キャンディ」だろうと、私の美意識に影響を与えたキャンプなもの、全部。それがガブリエル・ヘルドよ。金曜の夜の「TGIF」で食事をすること以外にも世界があることを、私たちみんなに教えてくれた人。あなたはいつも、私たちの人生のキュレーターだったわ。あなたは、ミックスしたり、マッチさせたり、ついでに目配せしたりしながら成長してきた。今のカルチャーって、さぁ90年代を復活させましょうみたいなすごく無知なやり方をしてるけど、あなたがずっと情熱を持ってきたものがメインストリームに出るのは、どんな気分?
そうだな、複雑な気持ち。僕の専門は90年代のビンテージだからビジネス的には歓迎だけど、そうなると、僕の分野を例えば2005年くらいまで移動させなきゃいけない。僕は2008年頃にJuicyのスウェットスーツを復活させてたけど、今それが流行ってるから、Alexander McQueenのスカル スカーフとか、皮肉でも何でもなく、まだ人が普通に着てるものを始めようかと思ってる。ノスタルジアや年代ごとのトレンドの先を行くなら、そこ。早すぎるくらいにリバイバルさせる。「ドライクリーニングを取りに行ったら、もうリバイバルになってるの」って、パッツィー・ストーン(Patsy Stone)が言ってる。

それ、いいわね(笑)! あなたのインスタグラムをフォローしてる人たちのこと、どう思ってる? って言うのも、私が出てた「GIRLS/ガールズ」を見た人はたくさんいるけど、きちんと理解してくれた人もいれば、不純な理由で見てた人もいる。おっぱいを見るのが目的とか、私が素敵だからとか...。あなたのインスタグラムやあなたの仕事をフォローしている人たちって、あなたの言いたいことを本当に理解しているのかな? それとも、ただ「あはは、パリス・ヒルトンだ(笑)」って感じなのかな? ファンとの関わりについて、どう考えてる?
意味合いを全部分かってる人もいれば、初めて見るって人もいる。僕が好きな、必ずしもそれほどメインストリームじゃないものが主役の場としては、良いポジションにいる気がするな。フォロワーは8万人くらい。みんながみんな僕の背景を知っているわけじゃないのは分かってるけど、文化の盗用みたいな点では、僕はすごくラッキー。僕のスタイルはすごくヒップホップに影響されてるけど、必ず自分なりの解釈を表現するし、インスピレーションの源を明らかにしてる。勝手に取っておいて、自分が作ったような顔はしない。僕の仕事に貢献してくれたものに対しては、敬意を払う。ほとんどの人は、僕は横取りする人間じゃなくて、いいものを見つけて鑑賞する人間だと分かってくれてると思う。それでもやっぱり、認めるべき功績は認めて、何かを築いた人をリスペクトすることは大切だよね。
築いた人をリスペクトするって、完璧な表現ね。ビンテージの洋服を集めるとき、自分のお店に商品を並べるとき、コレクションを売るとき、どうしても必要なものってどう分かるの? ガブリエル・ヘルドの服だ、ってどうやって分かるの?
正直言って、身体的な感覚。吐き気がしそうなほどだったら、絶対手に入れなきゃダメ。あと、個人的に意味があるもの。僕、人が着てた服だけは記憶に残るサヴァン症候群的な気があるんだ。例えば、Stella McCartneyのビンテージを集めるときは、君のワードローブがインスピレーション。君が持ってるバナナと猿の服とかPucciのムーン ブーツとか、そういうものを思い出すわけ。そういう個人的に意味があるものは、大抵手に入れるようにしてる。
私、商業レベルへ落とされたデザイナーのことをよく考えるの。シンシア・ローリー(Cynthia Rowley)なんて、実際はマーク・ジェイコブス(Marc Jacobs)並みのデザイナーなのに、ブルーミングデールズみたいな百貨店で売られてる。何かを感じさせる服、っていうのがあると思うの。トッド・オールダムは他のデザイナーに負けないほど革新的なのに、上手く行かなかったって話をしたじゃない? 彼がパリでやったことにはそれまでと違うエネルギーがあって、何だかそのせいで、みんな全体の基本的な性質が分からなくなった。
君や僕のような人間はそこに興奮するけど、他の人たちはそうじゃないんだろうね。僕の意見としては、トッドは絶対、服という媒体で活動したアーティストだった。彼やフランコ・モスキーノ(Franco Moschino)みたいなデザイナーは、ズタブクロみたいな生地でChanelのジャケットを作ったり、ほとんどファッションのパロディみたいなとんでもないことをやってたもの。

吐き気がしそうなほどだったら、絶対手に入れなきゃダメ

画像のアイテム:ブーツ(Miu Miu) 、 スニーカー(Emilio Pucci)

何かを崇拝して同時にバカにするのって、楽しいよ

モデル着用アイテム:ブーツ(Giuseppe Zanotti)
トッドは、おっぱいの下が見えちゃうクラシックな白いシャツも作ったわよね。
そう、絶対、メインストリームの消費者には無理だよね。つまり、僕にとっては余計にスペシャルだってことだけど。仕事として成功させるのは難しいかも。
今の時代はあなたのスタリングに傾いてると思う? みんな今は、セクシーになるよりも皮肉やジョークを求めてるから、ガブリエル・ヘルド効果に需要は高まってるって私は感じるんだけど。メインストリームとも繋がってる人のスタイリングもやってるでしょ。そういう場合、どの程度まで近づける? あなたがやることは完全に理解されてるのかしら?
僕のスタイリングで一番大切なのは、結局のところ、何かに視覚的な魅力を持たせること。だから、そういう意味では、僕はいつでもスタイリングできる。だけど、ジョークを理解しているかどうか分からないクライアントだったら、型破りなことはしないかもね。こぎれいな感じにして、ラクロワ(Lacroix)がデザインした2000年秋冬のPucciのスチレッチブーツに興奮するようなファッション ピープル向けにしておくかも。見るからに素晴らしいブーツ。分かる?
もちろん、100%分かるわ。自分が向かい合ってる対象をきちんと理解しなきゃいけないわね。スタイリングって、とても親密だわ。私も、本当に理解してもらえた、スタイリングされたって感じるときがある。それで家に帰ると、打ちひしがれて落ち込むの。スタイリングしてあげる人との関係は、どう思ってる?
とにかく最初から寛いでもらうことが、すごく大切だな。みんなお喋りすると楽になるから、僕がお喋り好きなのが役に立ってる。でも、僕は絶対、僕自身のエゴや意図をスタイリングの前面に押し出すことはしないよ。先ず対象、次に雑誌なんかの媒体、そのあとが僕、っていう優先順番でハッピーになってもらう。自分のやることと自分の好みを一致させたいけど、もし僕が感心しない服をクライアントが使いたがったら、実際に使ってみて、僕が上手くいかないって考える理由を見せるかもしれない。それから、着たくない服を押し付けることも絶対しない。ミュージシャンとか自分のアイデンディティを持っている人と仕事をする場合は、単なるモデルじゃないから、ありのままの姿を出してもらって、その人にとって最高のスタイリングを手助けするだけだな。

モデル着用アイテム:バッグ(Fendi)、 グローブ(Versace)、スカート(Miu Miu)
僕はずっと、一種の原始的なインスタグラムをやってきた

それが本当の仕事よね。みんなそういう風に感じたいはずだわ。誰のスタリングでも楽しんでると思うけど、印象に残ってる人は誰?
ラッキーなことに、今まで仕事をしてて、嫌な人に当たったことはないんだ。そうだな、レナ・ダナムがいちばん特別。いちばん楽しい仕事だった。僕の力が最大限に発揮できたし、素晴らしかった。ケラーニ(Kehlani)との仕事も楽しかったな。すごく聡明で若々しい女性。とにかく、オープンで、冒険を厭わなくて、純粋にプロジェクトを楽しめる人なら、誰だって大歓迎。レディ・ミス・キアー(Lady Miss Kier)との仕事も楽しくて、すごく絆が深まったんだ。このあいだはジョジョ(Jojo)がここに来て、試着してるあいだずっと歌ってたよ。ずいぶん楽しませてもらった。まるで、ホワイトハウスでアレサ・フランクリン(Aretha Franklin)を見ているアリアナ・グランデ(Ariana Grande)の気分。もう、うっとり。僕たちふたりとも、リズム アンド ブルースの白人シンガーって共通点もあるし。
では、最後の質問よ。クリエイティブに関するものでも個人的なものでもいいんだけど、今まで受けたベストなアドバイスは何? あなたが従ってる指針のようなものがあるかしら?
言えるのは、リズムに乗ってきたここ2年間、僕は人生の流れを信頼してるってことだね。以前は、宇宙の意図とは違う僕個人の意図を押し通そうとして、すごく失望してた。だけど、自然のリズムに抗う代わりに、自然のリズムに任せるようにした途端、それまで重要だと思っていたことがそれほど重要じゃなくなって、重要じゃないと思っていたものが重要になって、人生の進むまま、やりたいことをやって、とても快適。
レナ・ダナムは、ニューヨーク出身のライターであり映画監督である
- インタビュー: Lena Dunham
- 写真: Magnus Unnar / Rep Limited
- スタイリング: Gabriel Held
- ヘア&メイクアップ: Rei Tajima
- パフォーマンス アーティスト: Maluca Mala