ビッグ・ショーンのロサンゼルス的生活

楽園で居場所を見つけたラッパーが、リナ・ウェイスのドラマ出演とウェルネスを語る

  • インタビュー: Erika Houle
  • 写真: Julian Klincewicz

ビッグ・ショーン(Big Sean)は、毎日、日記をつけている。ほとんどが自分を肯定する言葉で、将来の計画について、とりとめのない考えを綴る。自分の目的を言葉で示し、描き出すことで、明確にしていくのだ。ショーン・マイケル・レオナード・アンダーソン(Sean Michael Leonard Anderson)として生まれた31歳のラッパーは、昨年1年間を、身体と心を繋ぐような内省を深める練習をし、瞑想を行い、自宅の地中海スタイルのプールを何往復も泳ぐのに費やした。

そして、「食物不耐症」、「炎症」、「食事計画にもとづいたスナック」など、ロサンゼルスのライフスタイルらしい流行語を織り交ぜつつ、今ではだいぶ健康的に見えるようになったし、気分も良くなったと言う。ショーンはデトロイトで育ったが、生まれはサンタモニカだ。彼が新たに見つけた生き方は、単なる西海岸のステレオタイプではない。彼がどのくらい業界に溶け込んでいるかを示すものだ。「ビッグ」の名は、かつてはビッグになることを意味していたかもしれないが、今では、ビッグな展望を意味している。

次のアルバム『Don Life』の完成に向けて作業中のビッグ・ショーンは、自宅スタジオで仕事に没頭していないときには、裏庭にあるハーブ ガーデンの手入れをしている。新鮮なミントやローズマリーの香りは活力を与えてくれる。彼は、家にいるのが好きなタイプだと言う。実際、ほとんどの時間を過ごしているのが、無類のパーティー好きで知られるガンズ・アンド・ローゼズ(Guns N’ Roses)のギタリスト、スラッシュ(Slash)が所有していたビバリーヒルズの豪邸だ。ショーンは、かつてロックスターのどんちゃん騒ぎの中心であった家を、今では「超リラックスできる」場所と表現する。スラッシュは、Playboyの広さにも匹敵するナイトクラブの内装を残していったが、ショーンはそれを一度しか使ったことがないと言う。キャリアも10年を過ぎ、ショーンにとってワーク ライフ バランスは贅沢になり、同時に不可欠にもなっている。そこで彼は独自のアプローチを極めたのだ。

デトロイトで育ったショーンは、今なお、その文化の恩恵を受けている。最近のヒット曲「Single Again」のミュージック ビデオでは、デトロイトの豊かなクリエイティブなシーンが見どころだ。彼は母親と共同で、地元の若い才能を支援してコミュニティに還元するプロジェクトである、年1回のD.O.N. (Detroit’s On Now) weekend開催に向けて活動してきた。今年の内容は、ショーンによるプログラミング教室、ヨガクラス、ショーンが司会を務めるメンタルヘルスについてのパネル ディスカッションだ。「これからはメンタル ヘルスとは呼ばないで、ただヘルスと呼ぼうと思うんだ」と言うと、黙って言葉を探す。「実際、そうなのだから」。彼は自分の主催するイベントを通して、誇りを持って、他の人たちに、自らを大切にするよう働きかけている。

フレンドリーな隣人のような雰囲気、そしてニッキー・ミナージュ(Nicki Minaj)、プシャ・T (Pusha T)、E-40、カニエ・ウェスト(Kanye West)、2チェインズ(2 Chainz)、エミネム(Eminem)、リル・ウェイン(Lil Wayne)など、これまで共に仕事をしてきたコラボレーション相手に見る彼の好み。これらを考えると、最近になってショーンがテレビで俳優デビューを企てたのが、受賞歴のある脚本家リナ・ウェイス(Lena Waithe)と共に食事をした結果であったというのも納得だ。「リナによると俺は上手くやったみたいだ」とショーンは言う。ブラック・エンターテインメント・テレビジョン(BET)の新作テレビ シリーズ、『Twenties』は、ウェイス自身がロサンゼルスに馴染んでいく状況を描くコメディーだ。彼女はショーンに、実際の本人と似ていなくもない、自分の感情に気を配る「筋トレ オタクの男」という役を与えた。今回、『Don Life』を完成させ、ウェルネスを高めるルーティンをこなし、2019年のMTVビデオ・ミュージック・アワード(VMA)でエイサップ・ファーグ(A$AP Ferg)と共に新作シングル「Bezerk」を歌う合間に、ショーンは、こうしたすべてのセルフケアが、どれほど彼の成功に役立っているのかを語った。

Big Sean 着用アイテム:シャツ(Gucci)

エリカ・フウル(Erika Houle)

ビッグ・ショーン(Big Sean)

エリカ・フウル:どういう点で、ロサンゼルスをホームだと感じていますか?

ビッグ・ショーン:母さんがいつも来てるんだ。家に彼女の部屋があって、誰もその部屋には触れることができない。いかにも、おうし座の母親だろ。

私もおうし座です。

彼女は最高だよ。

お母さまが来ているときは、何をするのが好きですか?

俺たちは食べるのが好きなんだ。リラックスするのが大好きで、映画もよく見る。彼女はあまり外出するのが好きじゃないんだけど、正直言って、俺も同じだね。家にいるのが好きなタイプなんだ。ラッキーなことに、俺には本当にすばらしい家があるから、家でやることには事欠かない。大きなホームシアターもあるし、良いプールもある。裏には、ミントやローズマリーや色んなハーブを育てているガーデンがあって、超リラックスできる。家の中にはナイトクラブもあるけど、ほとんど使わないね。この家は、ガンズ・アンド・ローゼズのスラッシュから買ったんだ。

かつてロックスターが奈落の生活を送った場所に住み着くのは面白かったでしょうね。

今じゃ家はまったく別ものだよ。ずっと明るくなった。当初考えていたよりも大変なプロセスだったけど、とにかく終わったよ。9ヶ月くらいかかった。

スラッシュのナイトクラブは今もそのまま? どんな感じなんですか?

あれは自分の目で見ないとダメだね。ちょっとPlayboyの洞窟みたいな感じさ。家では今まで1回しかパーティーを開いてないけどね。

いちばんお気に入りの部屋はどれですか?

家の中で好きな場所は、多分スタジオ。キッチンも本当に気に入ってる。

冷蔵庫の中にはどんなものが入ってるんですか?

新鮮なフルーツ。今年初めに食物不耐症とアレルギーのテストをして、自分がアレルギーのある物をたくさん食べていることがわかったんだ。アーモンドにアレルギーがあるのにアーモンドミルクを飲んでた。ケールやパイナップルみたいなものにもアレルギーがある。だから、自分の食習慣を見直さなくちゃならないんだ。冷蔵庫にはココナッツミルクが入ってる。たくさんのミニサイズのスナックも。食事計画にもとづいて用意したようなやつ。デッキには水をたくさん常備してる。俺のナンバーワン ドリンクだからね。水を飲まないって言う人がいると、ちょっと気持ち悪いと思ってしまう。変だよね。

水分補給は重要ですからね。他に日々行っているルーティンはありますか?

毎日、瞑想してる。週に最低5~6回はね。日記もつけていて、毎日のこともあれば、週に1度のこともあるけれど、自分を肯定する言葉を書き留めているよ。最近はたくさんトレーニングもしてる。本当にどこかに逃れる必要があるときに行く、あくまで自分にとっての個人的な場所がいくつかある。自然の真ん中にあるちょっとした避難場所だ。自然は確実に俺を落ち着かせてくれる。俺もときどき参ってしまうからね。詰め込みすぎるんだ。

リラックスする最良の方法は?

ドラッグとかそういうのは、あんまりやらないんだ。自分が頑張り通すには自分しかいない。緑茶を飲むよ。

特に役に立っている自分を肯定する言葉はありますか?

人には教えたくないかな。個人的なことだから。ペンは剣だと思うから、良いゴールドのペンを使ってる。自分を王様として見るんだ。自分を肯定する言葉を書くときは、法律とかを書いているみたいなものだ。そして、最後には毎回署名をする。法案に署名するみたいに。

ソーシャルメディアで常に他人のことが拡散されているので、自分のことに集中するのは大変なこともありますね。

他人と比べるのは楽しみが奪われるだけだと思ってる。嫌悪したり評価したりすると、あとで何らかの形で自分に返ってくる。言う意味、わかるだろ? 与えるのは愛だけでいいんだよ。

あなたにとって愛とはどのようなものですか?

条件付きの愛と無条件の愛の本当の違いに気づくのに30年かかった。前は大きな家とか、車とか時計とか、そういうのにはすべて代え難い価値があると思っていたんだ。そうじゃないね。代え難い価値があるのは、家族とか、何があってもそこにいてくれる人達からの真の愛情だよ。初めてベンツを手に入れたときのことを覚えてる。ずっと欲しかったんだ。でも1週間後には、そうでもなくなってた。その気持ちが弱まっちゃった。

優先事項が変わったと感じた瞬間はありましたか?

1年ほど前、どうも何かがしっくりこないことに気づいたんだ。一歩下がって自分の時間をとる必要があった。内面が手に負えなくなっていた。何が起きているのか自分でもわからなかった。17歳の頃から瞑想をしてきたから、不安やストレスには対処できてたのに。

では今はどのようにストレスに対処していますか?

セラピストを紹介してもらったんだ。しばらく会ってないけど、絶対にセラピーには戻らなくちゃ。ここのところ移動が多いせいだ。1ヶ月以上になる。でも1週間に1度、最低でも2週間に1度はセラピストに会いたいね。多くの時間を過ごすスピリチュアル アドバイザーがいて、名前はマリー・ダイヤモンド(Marie Diamond)。俺の瞑想を次の段階に導いてくれて、物事に対する見方や家の風水でも助けてくれる。彼女は絶対的な教祖だね。彼女は『ザ・シークレット』という映画にも出演してたし、たくさんの人や世界のリーダーのためにも仕事をしたことがある。実を言うと、初めてマリーと会った時、彼女はまるで俺の相棒みたいに感じたんだ。多分前世か何かでね。

彼女からは何か頼りになるアドバイスをもらいましたか?

もちろん。とってもたくさんね。ただただ感謝してる。もうひとり、たまに話をするクリスティーン・マリー・シェルドン(Christie Marie Sheldon)という女性がいて、彼女も最高だ。ふたりには別々のことを話しているんだけど、自分の中のエネルギーをクリアにして、障害を取り除いてくれる点では、ふたりとも半端ない。リアルな感情に向き合うことや、深く掘り下げること、自分自身のための時間を取るべきだという助言…、どれも自分ひとりでは克服できたかわからないことばかりだ。

このことを公にするのは難しいことでしたか?

オープンになれてすっきりしたよ。こういうことを経験する人はたくさんいる。どんなことがあっても被害者を演じたくはないんだ。最高に輝いているときと、最悪の暗黒のときを経験できるのは、ありがたいことだと思う。そうやって自分が作られていくんだから。

近ごろ、年1回開かれるD.O.N. Weekendの2回目を開催していましたが、そのなかで、メンタルヘルスに対する意識向上の取り組みを行い、セルフケアのパネル ディスカッションでは司会を務めたんですよね。それについて詳しく話していただけますか?

これは、非営利団体のボーイズ アンド ガールズ クラブと連携した週末のチャリティ イベントで、俺は、子どもたちが使える2つ目のレコーディング スタジオを作ったんだ。レコーディングだけじゃなく、エンジニアの技術も学べる。リハーサルができる照明スタジオやステージのほかに、ライティング センターもあって、みんながスタジオでパフォーマンスできる。D.O.N. Weekendでスタジオをオープンした初日、ステージでダンスをしている子どもたちがいて、それから照明を調整してる9歳の女の子がいたんだ。彼女は、「へえ、こんな仕事があるなんて知らなかったわ」と言って、「この仕事、現実でもやりたいかも」って言ったんだ。俺の母さんは目に涙を浮かべたよ。色んな目にあってきた人たちを癒すためにたくさんの企画を立ち上げて、ヨガやサウンド ヒーリングを教えたんだ。ブロック パーティーを開いて、5000人の子どもや家族が参加した。その翌日に、メンタル ヘルスについてのディスカッションをやったんだ。

演技に初挑戦したのを見ました。『Twenties』での経験はどうでしたか?

リナ[・ウェイス]によると俺は上手くやったみたいだ。すごく感動してたし、ディレクターや他のみんなにも「本当に上手だね。今までやろうと思ったことはなかったの?」と言われたよ。リナ・ウェイスみたいな、才能やハングリー精神がある人と同じセットにいられたのは、素晴らしい体験だった。

リナと一緒に仕事をすることになったきっかけは?

俺のアルバムを聞いてもらおうとリナを招待して、彼女が家に来たんだ。彼女が俺の他のアルバムの曲のラップを歌ってて、俺は[新しい]曲を流した。それから今人生でどんな地点にいるのかを語ってたんだ。彼女は「まるでこの役をやりたいって叫んでいるみたいだわ」と言ってたよ。それから、今度は別の晩に、彼女がシェフを連れてきて、俺と母さんにディナーを作ってくれたんだ。そして、「あなたにこの役を演じてもらいたいと思っているんだけど」と正式に頼まれた。いかにも彼女らしいのがわかるよ。俺を信じて、チャンスをくれたんだ。

では、あの役はあなたのためのものだったんですね。

あの役は俺に関連がある気がするよ。だって彼は自分自身をとてもよく理解していて、携帯を持ってないんだ。だからソーシャルメディアとかそういうのはあまりやってない。俺も一時ソーシャルメディアから距離を置いて、ただ本当に自分を正常に戻す必要があった。彼は筋トレ オタクなんだ。おかげでキャラクターを作って、その人物像を描き出し、演技するのが少し簡単になったよ。

何をあなたのレガシーにしたいと思いますか?

正直に言うと、俺は、子孫や先祖に誇りに思ってほしい。自分のプラットフォームを使って何か素晴らしいことをやったり、人々の人生における特定の瞬間や時を乗り越えるのを助けられるような音楽を作ったりしているという点でね。何かを克服したり、乗り越えたり、何かに向かったり、そういう人の役に立つことで名を残したい。

Erika Houleはモントリオール在住のSSENSEのエディターである

  • インタビュー: Erika Houle
  • 写真: Julian Klincewicz
  • スタイリング: Van Van Alonso
  • メイクアップ: Lucia Rodriguez
  • ヘア&メイクアップ: Ronnie McCoy
  • 制作: Rebecca Hearn
  • 制作アシスタント: Matthew Cheaton
  • Date: November 1, 2019